談放談−2

−シラスウナギの遡上について−

 わたしがながねん勤めていた静岡県水産試験場浜名湖分場には「はまな」という月刊の小冊子があります(最新の平成13年3月刊行のものが−継続は力なり−第480号)。その第176号(昭和50年11月刊)に「浜名湖に遡上するオオウナギのシラスについて」という一文が載っています。この記事には著者名がありませんが−ここにご披露するのもナンですが−かく言うわたしが著者です。

 その記事の要点は以下のとおりです。

 静岡県では毎年、シラスウナギ漁獲時期(12月1日〜翌年4月30日まで)の直前に、その漁期の漁獲を推測するために県知事に申請して特別にシラスウナギを採捕している(例年、11月初旬から12月初旬にかけて数回の漁獲を行う)。

 昭和50年11月に行われたシラスウナギ特別採捕試験(浜名湖内、雄踏地先)では下表のようなデータが得られた。

表 試験採捕初期のシラスウナギ採捕状況

ニホンウナキ ゙

オオウナギ

1

11

11

0(尾)

4(尾)

2

11

13

2

2

3

11

18

3

0

 これらはその年の特別採捕の最初から三回目までデータである。この年の特採は12月初旬まで行われたはずだが、オオウナギAnguilla marmorataのシラスが採集されたのはこの1・2回のみで3回以降の特採ではすべてニホンウナギA. japonicaしか採れなかった。

 事実としては(たった)これだけの話です。

 いらご研究所初代所長の元信 尭さん(1999年7月に死去)は若いころ静岡県水産試験場浜名湖分場に勤務していました。以下はそのころ、彼から聞いた話です。

 彼は学生時代、旧資源科学研究所でアルバイトをしていました。そのころ同研究所は利根川大堰建設の漁業に対する影響についての予備調査をしていたそうで、−その報告書に記載されていると彼が言っていましたが−オオウナギのシラスの遡上数のニホンウナギシラスのそれに対する割合は利根川では1:1万尾だが、鹿児島県では1:100尾だそうだ、とのことでした。

 これだけではなんとも言えないのですが、原文にあたっていないままに記します。

 昭和49年の日本水産学会春季大会には『講演番号219番「徳島県沿岸における日本産ウナギの夏期そ上について予報」徳島県水産試験場(取りまとめ発表者 日野 淑美)』という講演要旨がありました。

 じつは、この表題に惹かれて注目していたのですが、聴きに行くと講演取り消しになっていました。後日、知人に聞くと、夏にシラスウナギが遡上することが知られると採捕許可等に混乱が生じるから中止しろとの県行政側からお達しがあり、取り消しとなったとのことでした。「なかなか大変だなぁ」と思ったことを覚えています(しかし結果的には、これは同年の秋季大会でほぼ同じ表題と内容、同じ発表者で発表されています−講演番号313番)。

 その要点は、昭和48年7月に11尾と8月に16尾の日本産シラスウナギが採捕された、というものです。

 話はこれだけです。

じつは後日談があります。

 徳島水試ではこの調査をその後、昭和52年1月まで継続しました。その結果は「徳島水試事業報告(昭和55年3月)」に「徳島県沿岸における日本産シラスウナギのそ上生態調査−I〜IV」として記載されています。

 それによると、上記期間以降でも夏期にシラスウナギが採捕されています。この事業についてはまた、いまはない「養鰻研究協議会」の要録(第6回、昭和52年6月)にその要約が記載されています。こちらでは、昭和48年5月、7月、8月ならびに49年7月に採捕されたシラスウナギを脊椎骨数から同定して、それらはすべてニホンウナギであるとしています(この記述には問題が残ります。ニホンウナギとヨーロッパウナギA. anguillaの脊椎骨数はオーパーラップするから、正確には、オオウナギではない、と記述すべきだと思います。また、日本産シラスウナギとか日本産ウナギという表記にも問題があります。ここではA. japonicaの意味で用いているとは思いますが、「日本産」という言葉は「日本で生まれた」あるいは「日本にいる-いた」、ということでしょう。そうなると、日本には従来、ニホンウギとオオウナギがいますから、これらは両者とも日本産ウナギです。現在はヨーロッパウナギも日本の水域内にたくさん生息しています。これらも、漁獲されれば日本産ウナギと言われることになるわけです−正確に言えばネ)。

 従来、ニホンウナギシラスの遡上期は11月〜3月ごろと思われていましたが、このように−ごく少数ではありましょうが−それ以外の時期にも日本に来遊していることがわかってきました。

 最近の研究では、ニホンウナギの産卵・孵化期も分かってきつつあります。Tsukamoto, Lee and Mochioka(1998)によれば、1991年に採捕されたレプトセファルス耳石から見て、その産卵期は5月中旬と6月下旬に集中していたようです。また、Kawakami, Mochioka and Nakazono(1998)によれば、1993-94年に北九州に接岸したシラスウナギの耳石から見ると、その孵化時期は8〜11月(9月と10月に多い)で、ごくわずかに12月と1月に孵化していたとのことです。

 オオウナギの産卵期も、ほぼ周年行われているようです。

 それらを考え合わせると、日本の河川には、ニホンウナギもオオウナギも一年中遡上していると考えてよいのだと言えそうです。

 徳島水試事業報告についてご教示くださり、その写本をお送り下さった畏友、前徳島水試場長の城泰彦博士に感謝申し上げます。

参考文献

Tsukamoto, K., T-W. Lee and N. Mochioka (1998) Ichthyol. Res. 45:187-193.

Kawakami, Y., N. Mochioka and A. Nakazono (1998) Fisheries. Sci. 64:235-239.

岡 英夫、2001年5月(初出2000年6月)